旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

黒のエアバス ~大空のくつろぎ空間~

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高級感を前面に押し出した第3の航空会社

 一度乗ってみたかった黒いエアバス
 飛行機で出かけるとすれば、どこの航空会社を選ぶだろうか。赤組、青組などともいわれる大手キャリアの日本航空JAL)と全日空ANA)を、まずは思い浮かべる方も多いのではないだろうか。
 運航頻度、充実した路線網、そしてたくさんの航空機を保有するこの2社から、利用できる便を検索すると思う。かくいう私もそうした1人で、ネットで両社の空き状況と、運賃を比較してしまう。

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 どちらかのWEBサイトを開いて検索すれば、おおよその事は足りていた。そう、「過去形」だった。
 最近では、わざわざ航空会社のWEBサイトを開かずとも、希望する日と区間を入力するだけで、国内全社の便を検索して、しかも最も安い運賃の便から結果を表示させてくれるサイトが現れた。
 その一つ、googleもそういった検索サービスを提供している。
 まったく、とどまることを知らないgoogleのサービスには驚いた。いったい、googleの勢いはどこまで続くのか。まあ、そのことは本題とはずれてしまうので、置いておくとして、5月末に決行した倉敷弾丸旅行の帰路を検索すると...。

 SFJ028 関空KIX)->東京羽田(HND

 と出てきた。
 ん? JALANAではない?
 成田到着ならLCCもあったが、自宅は羽田の方が近い。弾丸旅行なので、できれば自宅に近い空港に降りたいと考えていたので、このSFJを選ぶことにした。

 SFJスターフライヤー
 黒塗りのエアバスA320を擁して、北九州空港ハブ空港にして、東京と西日本を結ぶ航空会社だ。赤組にも青組にも属さない、第三の航空会社として誕生したSFJは、多くの面で「差別化」を図り、いまや人気のある航空会社の一つだ。
 大手キャリアは、充実した路線網をもつ代わりに、その路線に適した機材を保有する。ローカル線なら小型機、幹線なら収容力のある中型機から大型機と、多種多様だ。空港のデッキで眺めていても楽しい。
 ところが、路線網に限りのあるSFJは、そんな多種多様の機材を保有するのは効率面でもコスト面でも不利になる。では、どうしたか?
 機材を1種類に絞り込んだのだ。
 LCC(格安航空会社)に人気のある、エアバスA320。最大で180席の設定ができる、旅客機としては小型の部類に入るが、保有するのはこの1機種だけ。しかも、たった10機しか保有していないから驚きだ。
 数少ない便数で、少数の保有機しかないなら、できるだけ多くの乗客を乗せた方が、収益も上がりやすくなる。1回飛ばすコストは、座席の数が多かろうが少なかろうがほぼ同じ。
 ところが、このSFJは、180席も設定できるのに、わざわざ150席に設定した。
 30席も減らしたのだ。SFJがメインにしている東京-北九州線で、普通運賃が1席36,890円だから、30席となると…1,106,700円も減収になってしまう!10万円単位ではない、100万円単位も違うのだΣ( ̄□ ̄;)
 これはもう、大盤振る舞い?ではないかとさえ思ってしまう。
 もっとも、早期に予約し購入するとかなり安く購入できるので、一概に損をしているとは考えられないが、それでも100万円単位は驚きだ。
 そんなSFJ。詰めれば180席をわざわざ150席にしているおかげで、座席はゆったりとした間隔がある。

ゆとりのある機内空間と白と黒の演出

 座席にゆとりがあるのは、旅をする上でとっても大事だと私は思う。
 なにしろ、国内線でも1時間から2時間は、座席に「縛り付けられる」からだ。
 座席間隔が狭ければ狭いほど、足元にゆとりがなくなる。当たり前の話だが、身動きが取りにくくなってしまう。脚を組んで座ろうものなら、狭い空間でやっとの思いで組むことになるし、しかもすぐに痺れが来てしまう。

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 そ

して、持ち込み手荷物を、前の座席の下に置いても余裕で取り出すことができるのだ。忙しいビジネスマンなら、鞄にパソコンやタブレットを入れておいて、飛行機が上空にあがった時に仕事を始めるにも、さほど苦労はしないだろう。
 大手キャリアなどの他社も、軽量薄型の座席を導入して、少しでも足許の間隔を広げているが、やはり座席の間隔は今まで通り。しかも、薄型の座席は、その詰め物が違う。ともすると形成ウレタン素材でできていて、しかも厚みがなくなってしまう。そうなれば、硬くて長時間座り続けるのに向かない。
 しかしSFJの座席は、しっかりとした作りになっていた。普通席であるにもかかわらず、詰め物は厚めで体をしっかりと支えてくれる。これなら、1時間以上のフライトでも疲れは少ない。
 そして、機内エンターテインメントも、通常ならオーバーヘッドピンからせり出してくる小型液晶モニターだが、SFJは各座席に備え付けられている。そう、国際線に乗らなければ体験できない、個人用機内エンターテインメントがSFJでは標準なのだ。つまり、国内線普通席でありながら、国際線普通席では標準の

接客設備をSFJでは採用していることになる。
 座席は黒の本革張りと、これもまた他社と差別化した高級感を演出している。もっとも、本革張り座席は多くのLCCでも採用しており、最近ではJALも国内線仕様の機材で採用している。これは、本革張りにすることで、座席の清掃が簡潔に行えるという航空会社側の事情もあるが、ともかく乗客にとっては「ちょっとワンランク上」の雰囲気を味わえる。座席の黒と、機内内装の白が絶妙なマッチングで、機内に入った途端に私は「これは違う!」と思った。

 離陸時、機内では必ず「安全ビデオ」を観ることになる。
 

いまの日本の航空会社は、ほとんどといっていいほど事故を起こすことは少ない。
 だが、いつ何時何が起こるかわからないから、私は念のための確認として観ているが、SFJの「安全ビデオ」は他社のそれとは趣が異なっていた。機内をジャズサロンに見立てて、ジャズを楽しむ観客が乗客となり、フライト中の諸注意や、緊急時の手順を案内してくれる。
 確認どころか、私は正面のモニターに見入ってしまったほどだ。
 細かいことだが、肝心なところにも「注目」してもらうための工夫が、SFJという会社のもてなし方の一つなのかもしれない。

他社とは「差別化」を図ったサービス

 機内サービスもまた、独特のものだった。
 私は飛行機で移動をするときに、無料ドリンクとしてスープを選ぶことが多い。もともとコーヒー好きな

のだが、なぜか飛行機ではコーヒーを選ぶことが少ない。その理由は、「豆」と「ドリップしてからの時間」なのだ。
 コーヒーの味は、豆とドリップしてからの時間に左右される。機内で提供されるコーヒーは、ほとんどが地上でドリップしてから、保温された状態で機内に載せられる。そうなると、コーヒーの味は酸味が増す傾向があり、ともすると「煮詰まった」ものになってしまう。そうなると、せっかくサービスをしていただいても、残念な印象しか残らなくなってしまう。
 ところが、SFJはよく駅などで見かける「タリーズ」と提携していて、その味を機内でも楽しめるというのだ。スープにもそそられたが、今回はコーヒーを頼んだ。少し小さめの紙コップに、熱いコーヒーが注がれて受け取ったが、その香りは町中のお店で楽しむ「タリーズ」のコーヒーそのもの。少し濃いめにつくられていたが、コクに深みがあってとにかく美味しかった。
 コーヒーを頼むと、もう一つ嬉しいサービスがあるのを知った。それは、同じく「タリーズ」の特製ビターチョコレートをもらえるのだ。2cm四方の正方形の薄いチョコレートだったが、コーヒーとよくマッチしている。コーヒーの深いコクに、さらに甘みを抑えたチョコレートは、なかなかの名コンビだと思う。

 とにかく、細かいところにニクい心配りを散りばめているSFJ。だが、一つだけ残念な点もあった。それは、機内wi-fiが未装備ということだ。もっとも、このサービスを国内線で充実させているのはJALだけで、ANAも最近始めたばかりだと聞く。
 今後は、運航機材の更新とともに、機内wi-fiサービスをと期待したいところだが、個人用機内エンターテインメントを装備していることを考えると、「過剰装備」にもなりかねないから、これはこれで、他社との差別化ということと、スマートフォンが普及した今日、常にネットとつながっているような生活だから、せめてフライト中だけはそこから解放されて、くつろぎの空間を味わうのも悪くはないかもしれない。

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 さて、関空から1時間ほどのフライトを終え、東京羽田に着陸。私が今回乗った便は、RWY34Lと呼ばれる滑走路に着陸した。国内線第一旅客ターミナルと国際線ターミナルの間にある滑走路だ。
 着陸して数分ほど移動したあと、到着したのは第一旅客ターミナルのランプ。おや?第二じゃないのか?と、思わず訝しげにもなったが、これは機材の運用上、次にどこへ行くかによって到着するランプが異なるようだ。第一に駐機したということは、この後折り返し北九州へと向かうのだろう。
 ただし、あくまでも北九州以外はすべて国内線第二旅客ターミナルの到着ロビーに向かうので、ここからは空港内を走るバスに乗り換えることになる。だから、階段のついたトラックが機体に横付けされ、乗客はそこから地上へと降りていくことになる。
 驚いたのは、通常、搭乗も降機も左舷なのだが、今回は右舷のドアからだった。おそらくは、駐機した場所の都合だったのかもしれない。
 こうして、「いつかは乗ってみたい」と思っていたSFJを利用した旅は終わったが、後発の航空会社としては、機内の設備といい、サービスの内容といい、かなり凝ったものだと感じた。そうした「差別化」を図ることで、「また乗ってみたい」と思える航空

会社づくりをしているのだろう。ゆとりのある機内は、大空でくつろぐには十分のもの。リピーターが多いと聞くが、それも納得だった。
 かくいう私も、また機会があれば利用したい、そう思える1時間ほどのフライトだった。
 まだスターフライヤーを未体験の方には、機会があれば体験していただければと思う。きっと、満足できるフライトになるだろう。<了>