旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

信越線・大雪で車内に430人閉じ込めたまま15時間立ち往生 その背景について考える 

 

 身を切るような寒さが続きます。2018年が明けて、日本列島は猛烈な寒波が襲来。関東から東海の太平洋側を除いて、軒並み大雪に見舞われているようで、テレビのニュースや情報番組でも大雪と寒波の話題が取り上げられています。
 そんな中、新潟の信越本線ではとんでもないことが起きていたようです。
 予想以上の大雪で、列車が立ち往生してしまい、なんと15時間も乗客は列車に詰め込まれたままになってしまったというのです。

 15時間。1時間や5時間ではないです。あまりに想像もつかない長時間。しかも、立ち往生した列車はJR東日本が新潟地区に投入した最新鋭のE129系電車。軽量ステンレス車体に最新のVVVFインバータ制御と、省エネで効率的な運用を可能にし、国鉄から継承した115系電車を置き換えつつあります。
 しかし、この電車。座席は車内の半分が通勤仕様のロングシート、残り半分が近郊形仕様のセミクロスシートと、何とも中途半端な車内設備をもっています。特にロングシートは窓を背にして横一列に座るので、ラッシュ時の混雑時にはより多くの人を乗せることができるのですが、その分だけ座席の定員は減ってしまいます。
 そんな車内で一晩を過ごすというのは、あまりにも過酷な状態だったのではないでしょうか。座席に座っている人はまだしも、立っていた人は寝ることはもちろん、座ることすらままならずいつ運転を再開するのかとひたすら待っていたのではないでしょうか。想像するだけで、何とも恐ろしいお話です。

 それにしても、大雪で列車の運行がままならず、立ち往生してしまったという話はあまり聞いたことがありません。あるとすれば、雪で凍結防止のためにポイントで焚いたカンテラの火がケーブルに燃え移って信号系統がやられたとか、その逆でポイントが凍結して転換不可能に陥ったとか、あるいは雪の重さで電車線(トロリー線)が断線して停電になったとかという状態です。
 あまりに雪が多く積もったから、列車が動かなくなったなんていう話はなくもないですが極めて稀です。こういう状態で列車が動けなくなったとは、余程の降雪量だったのかも知れません。
 まあ、相手が自然現象ですから、安全のために列車の運転を止めるのは仕方がないにしても、駅員がいる駅で運転を見合わせるか、あるいは打ち切るかをするのがセオリーです。
 ところが、今回は近くに駅はあっても無人駅。そこで列車を止めたところで、地上からの支援を得たり、乗客を降ろして代替の輸送機関に振り替えたりすることが厳しいと判断したのか、列車をそのまま運転させた結果が、駅間で立ち往生する羽目になってしまったと考えられます。

 そこで、幾つかの疑問が出てきます。
(1)輸送指令は管轄する各路線の降雪状況を把握していたのか?
(2)その報告をするために、保線区の職員に降雪時巡回をさせていたのか?
(3)保線区の職員が巡回し、状況を報告していたのか?報告したとすれば、施設 指令は輸送指令に情報を伝達しきれいたのか?
(4)施設指令は除雪計画を立てていたのか?
 大きく分けてこの4つが考えられます。

(1)についていえば、輸送指令は“大雪が降っているから、もしかするとマズい状況になるかも知れない”ということは把握していたと思われます。ですが、まさか列車が動けなくなるほど降っているとは考えていなかったかも知れません。
(2)と(3)ですが、近年、鉄道会社の多くは線路設備を守る保線や電気などの技術部門を子会社や関連会社に外注する傾向があります。国鉄時代は保線でいえば保線区本区を頂点に、保線支区や保線管理室などあらゆるところにきめ細かく保専職員を配置していました。残念ながら今では線路の保守を直轄で見ることは少なく、広域に区切られた保線技術センターのような部署があるのみです。ですから、異常気象などで職員が巡回するにしても、手が回らないという現状があるかも知れません。
 もっとも、こういう異常気象時の巡回は過酷を極めるもの。かくいう私も鉄道マン時代に何度か降雪時に出動しましたが、何とも言えぬ過酷さで寒さとの闘いでした。ですが、そうした鉄道技術者がいたからこそ、安全で安定した輸送を提供できたと思います。いまはそうした技術者も減ってしまい(熟練の技術者の年齢が上がり、定年などでの自然減もありますが、外注化によって意図的に削減していったことも考慮しなければなりません)、技術の継承もままならぬ時代です。施設指令と輸送指令の連携も難しいのではないかと想像しています。
 最後に(4)です。最近まで、降雪時には「特雪」と呼ばれる除雪列車が走っていました。除雪装置を取り付けたディーゼル機関車で、列車として必要に応じて運転されていました。ところが、この方法では列車として運転するために、車両の整備も営業用車両と同じになり、免許を持った運転士を手配しなければならないなど、運用コストがかかるという欠点から徐々に淘汰されていき、簡便な免許を持つだけで運用が可能な除雪装置付の保守用車に取って代わられてしまいました。保守用車なら、車両の整備も最低限で済む上、わざわざ運転士を手配しなくても免許を持った保線職員がいればよいなど、運用コストはかなり軽減できるようになりました。 

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ロータリー式除雪用ディーゼル機関車 DD14形。除雪時にも列車として運転できるため、比較的高速での走行が可能である。2018年現在、JR各社からはすべて除籍されてしまった。(写真はWikipediaより。©Mitsuki-2368

 ところが、この方式には欠点があります。それは、保守用車は車両ではなく、あくまでも保線用機械なので列車として運転ができません。本線上を走行するには、線路閉鎖という手続き(これが結構煩雑な手続きなんです)を行い、その区間に列車が進入しないように手配をしなければならないのです。ですから、今回のように突発的に大雪が降って除雪作業をしたくても、線路閉鎖という煩雑な手続きを踏まなければならず、しかも線路閉鎖中は列車の運転ができなくなってしまいます。これがかつての除雪列車であれば、営業列車の間合いを見て、臨時列車のスジ(ダイヤのことです)を利用して運転すればよく、しかも保守用車のように低速ではなく高速で(といっても、除雪しながらなので限度はありますが)除雪が可能だと考えられます。ある意味、ランニングコストだけを見て、必要な装備を削いでしまった結果だといってもいいかもしれません。(JR西日本などは、除雪に保守用車ではなく、除雪用の気動車を新製したの背景にはこうした考えがあったと思われます)

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JR西日本キヤ143形気動車。一見するとディーゼル機関車の様に見えるが、機関車ではなく除雪用気動車である。夏季はラッセル装置を取り外して、除雪以外の用途にも使用できる。保守用車ではなく、鉄道車両なので高速での運転が可能で、線路閉鎖をする必要もなく除雪が可能。(Wikipediaより©i Hokuriku)

 最後にもう一つ。立ち往生してしまった列車の乗客の救出について、輸送指令や旅客指令は判断を誤ったと言えるでしょう。一部の報道にもありますが、運転再開の目処が立たず、何時間も車内に乗客を閉じ込めたままというのはあってはならない事です。救援列車の運転が難しいのであれば、バスなどの代替の輸送機関を使って乗客を解放することが先決だったといえます。他の輸送機関でも二次災害などの危険があって困難であれば、自治体や警察・消防などと相談をし、いち早く乗客を安全な場所に避難させ、肉体的にも精神的にも安心させることが重要であったと考えられます。
 そうした意味においても、今回の事故は極端な経費節減を優先させた結果、必要な装備やこうした事態に対応できる人員を削減したり、臨機応変に対応できる人材の育成を怠った結果だといっても過言ではないでしょう。 かつて私を厳しくも優しく指導してくださった熟練の技術者たちは皆、異常事態に対して速やかに対応できる技術をもっていました。残念ながら、今日はそうした技術者が極端に少ないと聞きます。華やかなクルーズトレインも結構ですが、鉄道の根本である線路を守る技術者や異常事態に的確に対応できる人員の育成は喫緊の課題なのかも知れません。