旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

住みたい町ナンバー2! 憧れの街・武蔵小杉の「武蔵」ってなに!?

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 いまや首都圏のトレンドとなった街、武蔵小杉。ご存知の方もきっと多いはずです。
 首都圏で住みたい町ランキングでは、第1位の吉祥寺に次いで武蔵小杉は第2位。いや~ホントにスゴいです(^^;

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 でも、ちょっと前まではあまり知られてない町でした。というより、私が知っている武蔵小杉は、駅前にスーパーがあって昔ながらの飲み屋が軒を連ね、小さな雑居ビルが林立する町でした。この10年で本当に変わりました。

 駅前にはタワーマンションが次から次へと建設され、昔からある小さな雑居ビルは再開発の名の下に次々と駆逐されていっています。東急東横線の駅も改築されて、ショッピングビルのある一大ターミナルに。東口なんてものも、横須賀線口なんてものもありませんでした。
 昔の面影を残すのは、北口バスターミナルとその周辺、それに南口にある飲み屋街だけ。この10年で大変化です!Σ( ̄□ ̄;)

 ところで、この武蔵小杉という地名。実際にはありません!
 では、なぜ、武蔵小杉なのでしょう??
 先ほども書きましたが、地名に武蔵小杉なるものはありません。この周辺は、小杉町または中丸子という地名です。
 武蔵小杉という名称は、駅名からきています。

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武蔵小杉駅の普通入場券。旧国名を抜くと単に「小杉駅」になりますが、富山県射水市にある旧北陸本線(現在は並行在来線移管によりあいの風富山鉄道線)に小杉駅があるので、混同しないために旧国名を冠しています。

 私の地元やその周辺には「武蔵~~~」という駅名が多いです。
 ともすると、連続4駅!もあります。もっとも、地元の住民は駅を指すときに、わざわざ「武蔵」はつけずに単に「○○駅」といいますが(;´Д`)
 さて、私の妻がある日、

「なんで、駅に『武蔵』がついてるの?○○駅でもいいじゃない」

 と、至極当然の疑問を私に言いました。
 なるほど、確かにおっしゃる通りです。わざわざ、『武蔵』をつけなくても地元の住民はどこの駅かをきちんとご存知です。というか、○○駅でも通じますからね。

 この『武蔵』、歴史がお好きな方ならお分かりかと思いますが、東京都西部から神奈川県東部にあった旧国名です。
 では、なぜわざわざ旧国名を駅名に冠するのか???

 実は、この旧国名を冠しないと同一の駅名を持つ駅が複数存在することになるため、混同を避ける意味で旧国名を冠しているとのことです。
 その命名基準ですが、原則として後から開業した駅、または買収などによって国鉄線に編入された駅が、既存の駅と同一名称になる場合に旧国名を冠するとのこと。
 特に、駅の多い首都圏ではこの旧国名を冠する駅が多いので、妻も気になったのでしょう。
 その駅の例を挙げてみると…

 中央本線 武蔵境駅武蔵小金井駅
 武蔵野線 武蔵浦和駅
 南武線  武蔵小杉駅武蔵中原駅、武蔵新城駅武蔵溝ノ口駅
 五日市線 武蔵引田駅武蔵増戸駅武蔵五日市駅
 鶴見線  武蔵白石駅
 川越線  武蔵高萩駅
 総武本線 下総中山駅
 外房線  上総一ノ宮駅上総興津
 内房線  上総湊駅安房勝山駅安房鴨川駅
 久留里線 上総清川駅、上総松丘駅上総亀山駅
 成田線  下総神崎駅下総橘駅下総豊里駅下総松崎

 東京近郊区間のJR線だけでざっとこれだけあります。
 私鉄も入れてみると、その数はさらに増えます。

 例えば、中央本線では同一線上に同一駅名になってしまう駅があります。

 武蔵境駅(東京都武蔵野市境)と信濃境駅(長野県上諏訪郡富士見町境)

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中央本線信濃境駅から小海線甲斐小泉駅までの普通乗車券。どちらの駅にも旧国名が冠してあります。ちなみに、「信濃境」ではなく「信濃」の「境」という意味です。

 どちらも「境」という地名で、そこにある駅なのでそのままだと「境駅」となってしまいます。ところが、このままだと同じ中央本線にあるので駅名を混同してしまい切符を売るときにとても不便です。お客さんは「東京の境駅のつもりで買ったら、長野県の境駅まで買わされた!」なんてことになりかねません。ですから、どちらにも旧国名である「武蔵」と「信濃」を冠することで、どこの駅なのかを識別できるようにした、ということです。

 それでも、世の中には「例外」というのが必ずあるんですねぇ。
 それがこちら、

 山陽本線 横川駅(広島県広島市西区横川町)と信越本線 横川駅(群馬県安中市松井田町

 先ほどの原則を破っているかないかー!なんて、思われてしまうかも知れませんね。実は、こうした例外の駅も少なからず存在します。ただし、この例外は、あくまで該当する駅がかなり遠方であること、が条件のようです。
 それでも、切符を売るときに不便が出てしまう可能性があります。
 そこで、切符にはこのように表示されます。

 (陽)横川駅
 (信)横川駅

 という具合です。

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▲上は山陽本線の横川駅の入場券。下は信越本線の横川駅から熊谷駅までの普通乗車券。漢字では同じ「横川」の標記なので、識別のために括弧書きで所属線名を入れています。

 ちなみに、広島県の横川駅は「よこがわ」と読み、群馬県の横川駅は「よこかわ」と読みます。
 ほかにも、荒尾駅岐阜県東海道本線熊本県鹿児島本線)や島田駅(静岡圏・東海道本線山口県山陽本線)などがありますが、どちらもかなりの距離が離れています。

 国鉄が分割民営化してJRとなった現在でも、その命名基準は基本的に崩れてないのと。既存の旧国名を冠する駅をわざわざ変更する必要もない、ということから駅名もそのままのようです。
 もっとも、民営化以後、最近開業した駅の中には旧国名を冠しないで、同一駅名を避ける命名をした駅があります。
 JR奈良線の「JR小倉駅」です。福岡県にある鹿児島本線日豊本線の「小倉駅」と混同を避けるとともに、近鉄京都線の「小倉駅」と識別しやすくするために「JR」を冠したようです。同様に関西本線の「JR難波駅」はもともと「湊町駅」だったのを改称して誕生しました。私鉄の「難波駅」と識別しやすくするためのようで、駅名にアルファベットでる「JR]を冠したのはこちらが初めてだったようです。

 ともあれ、旧国名を冠する駅は多いですが、こういった事情であえて長い駅名になるのを承知で命名されています。

 ところで余談ですが、冒頭にも紹介した武蔵小杉。
 「ムサコ」という愛称を川崎市が公募により命名したようですが、残念ながら定着しませんでした。というより、地元ではほとんど使っていません。その理由は、「ムサコ」という略称が東急目黒線武蔵小山駅と紛らわしいということと、そもそも地元ではコスギ」という町名で通じるのでわざわざ「ムサコ」と呼ばなかった、からだということです。

 かくいう私はというと・・・「ムサコ」なんて一度も使ったことがありません( ̄ー ̄)